第33巻 第2号 2017年12月 和文要約
- 表題
- 上方比較経験と関係流動性が親密な二者関係における交換不安に及ぼす影響
- 著者
- 宮崎弦太(東京女子大学現代教養学部)
矢田尚也(大阪市立大学大学院文学研究科)
池上知子(大阪市立大学大学院文学研究科)
佐伯大輔(大阪市立大学大学院文学研究科)
- 要約
- 本研究では、自分は関係相手から自分よりふさわしい誰かと交換されるのではないかと心配する気持ちである交換不安の規定因について検討した。関係を失ったときに代わりとなる関係が見つけにくい環境において、上方比較によって自分よりも有能な他者と自分を比較したときに、交換不安は強まると予測した。社会的比較を実験的に操作した研究1 (n = 299)では、関係流動性の低い環境で生活している大学生は、下方比較したときよりも上方比較をしたときに、交換不安が強かった。研究2(n = 1000)では、都市的地域と村落的地域に居住する人を対象にオンラインの調査を行い、上方比較経験と交換不安との間の正の関連は関係流動性と特性自尊心によって調整されることが示された。これらの結果は、交換リスクが親密関係における交換不安に及ぼす影響は、自身の対人環境の特徴によって影響を受けることを示唆している。
- キーワード
- 交換不安、上方比較、関係流動性、親密な二者関係、自尊心
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- 表題
- 関係文脈内の自己と他者の特性表象の重複:石井(2009)の再現研究
- 著者
- 福島 治(新潟大学人文学部)
- 要約
- 石井(2009)は関係文脈内の自己と他者を対象とした同一の特性語に関する2連続の特性判断を用いて、先行課題である他者(例:「友人」)の特性判断への反応が、後続課題の自己(例:「友人といる自己」)の特性判断と一致する時より不一致な時に遅れることを見出した。これは自己の関係的側面についても自他表象の重複(Aronら,1991)があることを示唆している。しかし、その遅れは、他者と無関連な関係文脈における自己の判断との間においてもみられた(即ち「父」と「友人といる自己」)。本報告の研究1では、この石井(2009)の知見が再現されることを示した。研究2は、同一カテゴリーに属する他者(「親」カテゴリーとしての父と母)を刺激人物として、自己と他者のどの組合せにおいても反応の遅れを見出した。これは人物ごとの判断よりカテゴリカルな判断の優勢さを示唆している。対人関係によって生じる自己表象の分化の可能性と対人関係の特有性について議論された。
- キーワード
- 自己、特性表象、対人関係、関係性スキーマ
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- 表題
- 存在脅威管理理論におけるAffect-free claimの再考:
死の不可避性に対する脅威がその後の気分に与える影響
- 著者
- 戸谷彰宏(広島大学教育学研究科)
中島健一郎(広島大学教育学研究科)
- 要約
- 本論文の目的は、存在脅威管理理論に関するAffect-free claimの検証を行うことである。Lambert et al.(2014)は、死を顕現化させる操作(MS操作)はネガティブ感情をはじめとしていかなる感情をも高めないという主張、すなわちAffect-free claimへの反証を報告している。本論文ではこの知見の概念的追試を行うために、3つの研究においてMS操作がその後の気分に与える影響を検討した。研究1では大学生、研究2・3では20代と50代のweb調査モニターを対象にした。実験操作課題として、研究1・2では選択式の質問、研究3では自由記述式の質問による実験操作課題を用いた。研究1-3を通して、実験操作課題の種類や参加者の年代の違いにかかわらず、MS操作がネガティブ気分を高めることが示された。また、MS操作後の文化的世界観防衛反応は認められなかった。以上の結果より、存在脅威管理理論におけるAffect-free claimについて再考する必要性が示唆された。
- キーワード
- 存在脅威管理理論、死の顕現化、気分、文化的世界観防衛
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- 表題
- 制御焦点と向社会性:囚人のジレンマ課題を用いた検討
- 著者
- 佐藤有紀(日本エス・エイチ・エル株式会社)
五十嵐 祐(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
- 要約
- 本研究は、社会的ジレンマ状況において、制御焦点が協力への選好および向社会性に及ぼす影響を検討した。実験参加者は制御焦点の操作を受けた後、伝統的な囚人のジレンマのシナリオにおいて、協力(黙秘)もしくは非協力(自白)を選択した。この意思決定は、仮想的パートナーの選択がわからない同時手番と、パートナーの選択が明らかになっている逐次手番の2通りの状況においてなされた。分析の結果、予防焦点群の参加者は、促進焦点群や統制群の参加者と比べて、同時手番での非協力率が高く、逐次手番では相手の選択に関わらず一貫して非協力を選択する割合が高かった。これらの結果は、社会的ジレンマ状況において、予防焦点が協力への選好を減退させ、利己的な意思決定を駆動することを示すものである。
- キーワード
- 制御焦点、向社会性、協力、社会的ジレンマ
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