第33巻 第3号 2018年3月 和文要約

表題
セルフコンパッションが就職活動における不採用への対処に及ぼす影響の検討
著者
宮川裕基(帝塚山大学大学院心理科学研究科)
谷口淳一(帝塚山大学心理学部)
要約
本研究では、思いやりを持って自己に向き合うことを意味するセルフコンパッションの高い人ほど、就職活動における不採用に適応的に対処するのかを検討した。具体的には、この特性の高い人ほど不採用が自己に及ぼす脅威を過剰に高く見積もらないであろうという仮説1と、就職活動への内発・向上志向が高い場合に、この特性の高い人ほど再び就職活動に力を注ぐ (就職活動への自己資源の再投資) であろうという仮説2を検討した。大学生153名を対象とした研究1では、魅力的な企業の就職面接で落とされたという架空のシナリオへの対処を尋ねる場面想定法を用いた。就職活動生50名を対象にした研究2では、実際に経験した不採用を想起させる回顧法を用いた。分析の結果、研究1及び研究2ともに、セルフコンパッションは脅威性評価と有意な負の関連にあった。また、就職活動への内発・向上志向が高い場合に、セルフコンパッションは就職活動への自己資源の再投資と有意な正の関連を示した。以上の結果は仮説1及び仮説2を支持するものであった。
キーワード
セルフコンパッション、就職活動、不採用、就職活動への内発・向上志向、対処方略
表題
リーダーの暗黙理論がチーム差配に及ぼす影響:
失敗した成員に対する評価に着目して
著者
今瀧夢(東京大学文学部)
相田直樹(東京大学大学院人文社会系研究科)
村本由紀子(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
本研究では、集団のリーダー(差配者)が成員に対して行う評価や判断が、差配者の持つ暗黙理論(e.g., Dweck, 1999)の影響をいかに受けるかについて検討した。実験参加者はチームの差配者の役割を与えられた。彼らは成員の一人が課題遂行に失敗する様子を観察したうえで、当該成員に与える報酬額を決定すること、残りの課題遂行時間を当該成員と(当該課題をまだ経験していない)新たな成員との間で割り振ることを求められた。その結果、能力は可変的であると考える増加理論者は、失敗者から「自分は努力した」という呈示を受けると当該成員に対する評価を上昇させたが、能力は不変であると考える実体理論者は、もっぱら客観的な結果に基づいて成員への評価を行った。さらに、実体理論者は、新たな成員が少なくとも平均程度の成果を挙げると期待し、より多くの課題遂行時間を与えたが、増加理論者は、新たな成員に対して平均を下回る成果しか期待していなかった。一方で、失敗した成員の今後の遂行に対する期待には、暗黙理論による差がなかった。これらの結果は、実体理論者の方が成員を適材適所に生かす能力に長けている可能性を示唆するものである。
キーワード
暗黙理論、原因帰属、努力、集団、リーダーシップ
表題
リスク認知と知識量の関連:
電磁波の事例における主観的知識量と客観的知識量の役割の検討
著者
高木彩(千葉工業大学社会システム科学部)
小森めぐみ(四天王寺大学人文社会学部)
要約
本研究は、健康影響が未だ科学的に明らかにされていない科学技術に関する知識を主観的知識と客観的知識とに区別し、リスク認知に対するそれぞれの影響を検討した。日本人1110名に対するWeb調査が実施され、電磁波に関する主観的知識量と客観的知識量、電磁波への関心、リスク認知、関連組織に対する信頼感が測定された。調査の結果、回答者の電磁波に関する客観的な知識量は概して少なかった。主観的知識量と客観的知識量の間には有意な相関が認められたが、大きさは中程度であった。重回帰分析の結果、リスク認知に対して主観的知識量と客観的知識量の交互作用効果が認められた。客観的知識量は一貫してリスク認知を低めていたが、主観的知識量は回答者の客観的知識量が少ないときにのみリスク認知を高めた。考察では、電磁波に関する主観的知識量は世間に流布する電磁波に関係する言説によって高められている可能性が論じられた。
キーワード
リスク認知、主観的知識、客観的知識、リスク・コミュニケーション、電磁波
表題
違法・有害情報対策従事者の職務ストレスの実態とその関連要因
著者
竹中一平(武庫川女子大学文学部)
落合萌子
松井豊(筑波大学人間系)
要約
現代社会において、青少年の健全育成のために違法・有害情報のフィルタリングは必須であるが、その従事者の精神的被害は見過ごされている。本研究は、日本における違法・有害情報対策従事者の精神的被害の実態とその関連要因を明らかにした。違法・有害情報対策を行っている企業に勤務する違法・有害情報対策従事者160名を対象に調査を行った。回答者全体のうち、心的外傷後ストレス反応 (IES-R) のハイリスク群は10.4%であり、精神的健康 (GHQ-12) のハイリスク群は47.0%であった。これらの結果と先行研究を比較した結果、違法・有害情報対策従事者の精神的被害は消防職員やジャーナリストに匹敵するものであると推定された。また、IES-R及びGHQ-12の得点を従属変数とした数量化Ⅰ類による分析をおこなった。その結果、衝撃を受けた違法・有害情報に触れた直後のストレス反応に加え、情動的共感性等が心的外傷後ストレス反応や精神的健康に関連することが明らかにされた。
キーワード
違法・有害情報対策従事者、職務ストレス、心的外傷後ストレス反応、共感性、インターネット
表題
ホストクラブ従業員にみられる被職業スティグマ意識と対処方略
著者
小森めぐみ(四天王寺大学人文社会学部)
要約
本研究では労働者の被職業スティグマ意識を調べた上瀬・堀・岡本(2010)の追試として関西ホストクラブの従業員を対象に調査を行い、ホストの保持する被職業スティグマ意識および対処方略の利用の現状と、職業自尊心および平等主義的性役割観の関連について検討した。調査の結果、ホストが深刻な被職業スティグマ意識を抱いていることが示された。勤続期間が短く、出勤頻度が低く、兼業をしている者ほど被職業スティグマ意識が強かった。対処方略としては価値付けや集団同一視が使われにくく、差別への帰属や脱同一視が使われやすかった。共分散構造分析の結果、集団同一視は職業自尊心を高めていたが、ステレオタイプ脅威の強さが集団同一視を抑制していた。スティグマ自覚は差別への帰属を高め、それが職業自尊心を低めていた。平等主義的性役割観は価値付けや差別への帰属と関連していた。
キーワード
ホスト、職業スティグマ、職業自尊心、対処方略、平等主義的性役割観
表題
買物意識の2次元モデルについての検討:
日本の消費者における快楽次元と効用次元の測定
著者
大久保暢俊(東洋大学人間科学総合研究所)
下田俊介(東洋大学人間科学総合研究所)
鷹阪龍太(東洋大学大学院社会学研究科)
山田一成(東洋大学社会学部)
要約
本研究の目的は、日本における買物意識の2次元モデルの妥当性について検討することである。公募型Web調査(2014年実施)で得られた1,286名のデータに対して因子分析を行った結果、想定されていた2因子構造、すなわち快楽因子と効用因子による2因子構造が確認された。また、快楽因子の測度は高い内的一貫性を示したが、効用因子の測度の内的一貫性は相対的に低かった。なお、両因子の測度と、バーゲン志向、衝動購買傾向、浪費抑制志向との関連について検討した結果、両因子の測度が十分な構成概念妥当性を持つことが示された。また、多くの場合、それらの関連は、性別、ライフステージ、世帯年収の影響を受けていなかった。日本の消費者における買物意識の2次元モデルの含意が議論された。
キーワード
消費者意識、買物経験、Web調査