第34巻 第1号 2018年7月 和文要約

表題
溜め込みは何をもたらすのか:
ホーディング傾向とホーディングに因る諸問題の関係性に関する検討
著者
池内裕美(関西大学社会学部)
要約
本研究では、「ホーディング傾向」を“何らかの主観的な意味を付与しているために、モノを溜め込み、処分できない性向”と規定し、非臨床群を対象にweb調査を行った。まず基礎的な研究として、ホーディングの発現率と性・年齢要因との関連性について検討し、次いで、ホーディング傾向とホーディングがもたらす諸問題との因果関係について検証を試みた。調査対象者は453名であり、web上にて質問紙が配信された。主な結果は以下の通りである。1) 日常的にモノを溜め込む割合は、性別では女性、年齢別では30代において有意に高いことが見出された。2) 分析の結果、ホーディングは精神的問題、経済的問題、社会的問題、物理的問題を引き起こすことが認められた。また、共分散構造分析により、仮説モデルを検証したところ、「処分回避」や「拡張自己」といったモノに対する特別な執着が物理的問題を招き、それが他の問題を生じるといった因果関係が示唆された。3) さらに多母集団同時分析を行った結果、特に60代の因果モデルが他の年齢層と大きく異なり、処分抵抗がほとんどなく、物理的な問題が起きる可能性も低いことが見出された。
キーワード
ホーディング、過剰取得、強迫性購買、拡張自己、因果関係
表題
治療方針の共有が人工知能への信頼に及ぼす影響
著者
横井良典(同志社大学大学院心理学研究科)
中谷内一也(同志社大学心理学部)
要約
本研究の目的は、治療方針を共有しているという認知が内科医療における人工知能への信頼に及ぼす影響を検討することであった。これまでリスク認知研究において議論されてきた信頼の規定因として、相手の能力と誠実さ、相手との価値共有の認知が主に挙げられる。一方、人工知能に対する信頼の研究においては能力と誠実さが人工知能への信頼を高めることが多数報告されている。しかし、価値共有に焦点を当てた研究はほとんど存在しない。そこで、本研究では場面想定法を用いて、治療方針の共有が人工知能への信頼を高めるかどうかを検討した。第1実験 (n=165) の結果は、治療方針の共有によって、人間の医師と同様に、人工知能への信頼が上がることを示した。また、医師よりも、人工知能の方が信頼評定値は低かった。第2実験 (n=139) では、操作チェックにおける質問項目を改善したうえで第1実験の再現性について検討したが、おおむね第1実験の結果が再現された。最後に、今回の知見の実務的な意義について考察を行った。
キーワード
人工知能、信頼、価値共有、医療、能力
表題
援助行動に対する第三者による批判の規定因:自己呈示文脈に注目して
著者
山本佳祐(大阪市立大学大学院文学研究科)
田中宏明(大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センター)
要約
本研究では、援助行動に対する第三者の批判を喚起する状況要因について検討した。援助行動が援助者の自己呈示であると解釈されやすい場合に、利己的動機が推測されやすいと予測した。大学生149名を対象にシナリオ実験を行った。参加者は複数の場面での援助行動について記述したシナリオを読んで一連の質問に回答した。マルチレベル構造方程式モデルを用いた分析の結果、予測は部分的に支持された。援助場面に偶然居合わせた観察者が援助行動を称賛している状況では、観察者が称賛していない状況に比べ、利己的動機が推測されやすくなることが示された。しかし、利己的動機の推測により、援助行動が批判的に評価されることは示されなかった。また、被援助者が援助を拒否している状況では、援助が要請されている状況に比べて、援助の必要性が低いと認識され、利己的動機が推測されやすくなることが示された。本研究の方法論的な問題と将来の展望について考察した。
キーワード
援助行動、第三者、批判、自己呈示文脈、動機推測
表題
過去の旅行経験からみた観光地イメージ
著者
林 幸史(大阪国際大学人間科学部)
小杉考司(専修大学人間科学部)
要約
本研究の目的は、過去の旅行経験によって観光地のイメージがどのように異なるのかを明らかにすることである。従来は、トラベル・キャリアや訪問回数といった観点から、過去の旅行経験が観光行動に影響することが明らかにされてきた。本研究では、人は旅行経験を積むことで発達的に変化を遂げる存在として位置づけ、過去の旅行経験の指標として47都道府県の宿泊経験を用いた。大阪府在住の500名を対象にインターネット調査を実施し、全国10カ所の観光地のイメージと47都道府県の宿泊経験について尋ねた。分析の結果、以下のことが明らかになった。(1)調査対象者は宿泊経験に応じて4つのクラスターに分類された。(2)国内旅行経験が多い人は、地理的位置と観光地の特性にもとづいてイメージしている。(3)訪問経験があり、国内旅行経験量も多い旅行者は、その観光地に対するイメージが画然としている。これらの結果を踏まえて、旅行者としての熟達過程について考察した。
キーワード
過去の旅行経験、国内旅行経験、熟達化、トラベル・キャリア、観光地イメージ
表題
マスメディアへの信頼の測定におけるワーディングの影響:
大規模社会調査データとWeb調査実験を用いて
著者
稲増一憲(関西学院大学社会学部)
三浦麻子(関西学院大学文学部・大阪大学大学院基礎工学研究科)
要約
マスメディアへの信頼の低下という問題は、インターネットの普及やマスメディアを攻撃することで支持を集める政治家の増加とともに国内外で注目を集めているが、日本では社会調査におけるマスメディア(テレビ・新聞・雑誌)への信頼の測定項目が調査ごとに異なっており、信頼低下についての検証は難しい。過去に行われた調査の結果を整理したところ、4件法の選択肢にどのような副詞を付すか、新聞・雑誌への信頼をまとめるか新聞単独の信頼を尋ねるか、信頼の測定対象が組織だと明示するかという3要因によって信頼の評定が大きく異なっていた。これらの差が、質問項目のワーディングが信頼の評定に影響を与えるという因果関係に基づくかを明らかにするためWeb調査を用いたランダム化比較実験を用いた検証を行った。その結果は社会調査と一貫しており、質問文と選択肢により、最大で25%以上信頼の評定が異なっていた。これは、マスメディアへの信頼の測定において、明確な理由をもってワーディングを選択することの必要性を強く示唆する。
キーワード
マスメディア、信頼、社会調査、ワーディング、Web調査実験