第34巻 第3号 2019年3月 和文要約
- 表題
- 2者から異なる方向に説得される状況での被説得者の認知資源と態度変容プロセスの関連の検討
- 著者
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中村 早希(関西学院大学大学院文学研究科)
三浦 麻子(関西学院大学文学部/大阪大学大学院基礎工学研究科)
- 要約
- 本研究は、複数源泉・複数方向の説得状況における態度変容プロセスを解明すべく、その状況の最小構成単位である2者が異なる方向に説得する状況を設定し、ヒューリスティック-システマティックモデル (HSM) による態度変容プロセスの説明可能性を検証するものである。具体的には、説得的メッセージを提示する際の受け手の認知資源を制限することによって、ヒューリスティック処理あるいはシステマティック処理のいずれかがなされやすい状況を設定し、外集団成員の方が内集団成員よりも論拠が強いメッセージを提示した場合にそのどちらの説得に応じるかを測定した。認知資源を二重課題の実施(研究1)やメッセージの提示時間(研究2)によって制限した場合、そうでない場合と比較して、内集団成員の唱導方向へ、つまり好ましいヒューリスティック手がかりを持つ方向への態度が形成された。この結果は、複数源泉・複数方向の根幹のプロセスをHSMで説明できることを示している。
- キーワード
- 複数源泉・複数方向の説得状況、HSM、認知資源
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- 表題
- 裁判員裁判を想定したフォーカスグループの効果の検証
- 著者
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荒川 歩(武蔵野美術大学造形構想学部)
菅原 郁夫(早稲田大学大学院法務研究科)
- 要約
- 陪審コンサルタントによるフォーカスグループは、アメリカでは一般的であるが、日本ではあまり使われておらず、この方法の効果についても検証されていない。本研究では裁判員制度を想定して本効果を検討した。最初に11人の大学生がフォーカスグループに参加し、想定事件の争点となる言葉(e.g.,正当防衛)や説得主題(e.g., 我を失った状態での行為)についてどのように感じるか議論した。その内容は、一般の大学生ならどうこたえると思うかという法科大学院生による予測と比較された。次に、別の法科大学院生1名が、このフォーカスグループの結果の要約を読む前後に最終弁論を書いた。さらに、別の大学生31人が、2条件(フォーカスグループの結果を踏まえた弁論を読む条件15名、踏まえていない弁論を読む条件16名)のうちのいずれかに割り当てられ、その上で有罪・無罪判断、その確信度を回答し、弁論のうち影響を受けた部分に印をつけた。印をつけられた言葉は数量化された。有罪率に条件差は認められなかったが、無罪と回答した人の確信度は向上し、参加者はフォーカスグループの結果を踏まえた弁論に影響を受けていた。この結果は、評議の中で議論される最終弁論を書く上でフォーカスグループが有効であることを示す。
- キーワード
- 裁判員制度、陪審調査、フォーカスグループ、視点取得、法と心理学
- 表題
- 手続き的公正の対人的要因に対する注意の調整効果の実験:
原子力発電所再稼働に関する首相のスピーチに対する印象形成
- 著者
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今在 慶一朗(北海道教育大学)
- 要約
- 手続き的公正の知覚は政治的決定の受容を促進すること、手続き的公正は権威者の印象によって知覚されやすいことは先行研究によって確認されてきた。他方、政治的問題について人々は、常に詳細に検討を行うわけではなく、しばしば周辺的な情報を用いてヒューリスティックな処理を行い、態度を決定すると考えられる。本研究では、原子力発電所の再稼働に関する首相のスピーチについて、印象形成の実験を行った。参加者を注意の集中度に応じて分割し、首相に対する評価と手続き的公正、決定に対する支持の関係について分析を行った。全体的に、説明責任に対する評価が手続き的公正や決定に対する支持を促進することが確認されたが、加えて、集中度が高い群の参加者ほど説明責任の評価の手続き的公正に対する効果が顕著であった。
- キーワード
- 手続き的公正、注意、説明責任、中心/周辺ルート
- 表題
- 主観的被害確率が犯罪不安に与える影響:
階層的クラスター分析による罪種分類に基づいて
- 著者
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柴田 侑秀(同志社大学大学院心理学研究科)
中谷内 一也(同志社大学心理学部)
- 要約
- 従来の犯罪不安研究は、被害にあう主観的確率が不安を導くことを相関研究で指摘していた。しかし、因果関係は確かめられていない。本研究ではこの関係を、実際の犯罪認知件数を回答者に提示することで確かめた。Study 1では173名の大学生を対象に、日本の一般刑法犯27種類に対する印象を調査し、実験材料とするためにその回答を階層的クラスター分析を用いて分類した。その結果、27種類の犯罪は4つのクラスターに分かれることが明らかになった。Study 2では274名の大学生をランダムに実験群と統制群に分け、実験群には傷害の認知件数を提示した。その結果、認知件数を提示された参加者は主観的確率を低減させ、犯罪不安も減少した。このことから主観的確率が犯罪不安を導くという因果関係が確かめられた。そして本研究の意義と制約が議論された。
- キーワード
- 犯罪不安、リスク認知、主観的確率、被害の影響の大きさの推定
- 表題
- NHK連続テレビ小説に表れる男性役割:
時代的な変遷、登場人物の年代、女性主人公との関係性による差異
- 著者
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渡邊 寛(筑波大学大学院人間総合科学研究科/日本学術振興会)
城間 益里(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
- 要約
- 昨今、伝統的な性役割を否定する人が増加し、男性役割も多様化している。本研究は、男性役割の9側面を用いて、日本のテレビドラマである、NHK朝の連続テレビ小説(以下、朝ドラとする)における男性像に関して、時代的変化と登場人物の年代、女性主人公との関係性による差異を検討した。その結果、壮年男性では、60年代・70年代の「他者への配慮」から、80年代・90年代の「社会的地位の高さ」、00年代・10年代の「家庭への参加」へと変化した。若年男性では、90年代の「作動性の高さ」から、10年代の「女性への気遣い」へと変化した。このほか、女性主人公の夫・元夫や異性友人・恋人において、「女性的言動の回避」、「女性への優位性」、「女性への気遣い」が多く、女性主人公の兄弟や息子、隣人において「精神的・肉体的な強さ」や「強さからの解放」が多かった。日本における社会的変化を踏まえて、これらの結果が考察され、今後の展望が議論された。
- キーワード
- 男性役割、朝ドラ、時代的変化、登場人物年代、女性主人公との関係性