第35巻 第1号 2019年7月 和文要約

表題
社会性と集団パフォーマンス:
他者の感情理解と自己制御に着目した マルチレベル分析による検討
著者
原田知佳(名城大学)
土屋耕治(南山大学)
要約
本研究では、メンバーの社会的感受性や自己制御といった社会性の高さが目標共有や役割分化の生起時期を早めることによって、集団パフォーマンスが向上するとの仮説のもと、検討を行った。大学新入生156 名(5-7 名×26グループ)が合意形成課題に参加した後、集団における目標共有・役割分化の生起時期、満足度、社会的感受性、社会的自己制御について回答した。その結果、課題成績においては、社会的感受性も自己制御の集団平均値がともに高いグループほど集団パフォーマンスも高いことが確認された。ただし、社会性の集団平均値が高いグループは目標共有や役割分化の生起時期が早いというわけではなかった。結果をもとに、社会性が集団パフォーマンスに及ぼす影響プロセスについて議論した。
キーワード
社会性、集団、自己制御、社会的感受性
表題
評定尺度法の反応ラベルによる影響の補正:
公的組織への信頼に関する社会調査を題材として
著者
稲増一憲(関西学院大学社会学部・関西学院大学社会心理学研究センター)
清水裕士(関西学院大学社会学部・関西学院大学社会心理学研究センター)
三浦麻子(関西学院大学文学部・関西学院大学社会心理学研究センター)
要約
本研究は、東日本大震災が公的組織への信頼にもたらした影響の検証を通じて、評定尺度法において、反応ラベルが異なる2種類の調査で得られた値を比較可能にする方法を提案する。震災をまたぐ世界価値観調査とアジアン・バロメーター調査においては、いずれも「自衛隊」「警察」「裁判所」「テレビ」「政党」「国会」という6つの組織への信頼が測定されているものの、評定尺度の反応ラベルが異なる。そこで本研究は、この影響をベイズ統計モデリングによって補正することで、信頼の変化について検証した。その結果、「自衛隊」への信頼が上昇したのに対して、「裁判所」「テレビ」「政党」「国会」への信頼が低下したことが明らかになった。本研究が示したような統計モデリングを用いた社会調査データの補正は、震災の影響の検証に留まらず、短期的あるいは長期的な社会の変化について検証する際に有効である。
キーワード
社会調査、反応ラベル、ベイズ統計モデリング、災害、信頼
表題
公募型Web調査におけるTIPI-Jの利用可能性の検討
著者
鷹阪龍太(東洋大学大学院社会学研究科)
山田一成(東洋大学社会学部)
要約
本研究の目的は公募型Web調査におけるTIPI-J(日本版Ten Item Personality Inventory: 小塩・阿部・カトローニ, 2012)の利用可能性について検討することであった。まず、520名を対象とするWeb調査(男性264名、女性256名、年齢20~69歳)を実施し、相関分析によってTIPI-Jの内的整合性について検討するとともに、TIPI-JとBFS-S(内田, 2002)の相関分析によって、TIPI-Jの併存的妥当性と弁別的妥当性について検討した。その結果、TIPI-Jが十分な内的整合性と妥当性を持つことが示された。続いて2波のパネルWeb調査(男性316名、女性306名、年齢20~69歳、4週間間隔)を実施し、その結果、TIPI-Jが十分な再検査信頼性(r =.72~.84)を持つことが示された。以上の結果から、TIPI-Jは日本の公募型Web調査において十分な信頼性と妥当性を持つことが確認された。最後に、TIPI-Jの利用可能性と項目の改善について議論された。
キーワード
ビッグファイブ・パーソナリティ、TIPI、信頼性、妥当性、Web 調査