第35巻 第2号 2019年11月 和文要約

表題
キリスト教信者におけるキリスト教的宗教意識と主観的幸福感との関連:ローマ・カトリック教会とホーリネス系A教団を対象にして
著者
松島公望(東京大学大学院総合文化研究科)
林 明明(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所行動医学研究部)
荒川 歩(武蔵野美術大学造形構想学部)
要約
本研究は、キリスト教信者を対象にキリスト教的宗教意識と主観的幸福感との関連を検討した。ローマ・カトリック教会(教団内地位別:一般信者58名、宗教指導者61名)とホーリネス系A教団(教団内地位別:一般信者646名、宗教指導者102名)が参加した。まずキリスト教的宗教意識尺度を作成した。因子分析の結果、「キリスト教の教え(教義)に基づいた信念(以下、「信念」)」「教会活動規範」「キリスト教会によって育まれる人間関係(以下、「人間関係」)」の3因子構造となった。次に、キリスト教的宗教意識と主観的幸福感との関連について検討した。階層的重回帰分析を行った結果、「信念」、「人間関係」が高い人ほど主観的幸福感が高いこと、それに対して所属教団の影響は限定的であることが示された。また、教団内地位の影響はみられなかった。これらの結果から、主観的幸福感は所属教団の影響があるが、キリスト教的宗教意識に依るところが大きいことが示唆された。
キーワード
キリスト教信者、キリスト教的宗教意識、主観的幸福感、ローマ・カトリック教会、ホーリネス系A教団
表題
観光写真調査法による観光地の魅力評価
著者
林 幸史(大阪国際大学人間科学部)
要約
本研究の目的は、観光写真調査法(TPM)によって、旅行者が、どのような観光資源を通して観光地の魅力を認知しているのかを明らかにすることである。75名の旅行者から調査協力が得られた。提供された742枚の写真を分析した結果、欧米の旅行者は、寺社建築や近代建築、仏像、日本家屋といった対象を通して、アジアの旅行者は、食べ物や店舗、灯籠や鳥居などの対象を通して奈良の魅力を評価していた。日本人旅行者においては、訪問回数の多い群が、石造遺跡、樹木植物といった対象を通して、訪問回数の少ない群は、同行者、寺社建築や鹿といった対象を通して奈良の魅力を評価していた。また、旅行者にとって奈良での観光経験は大きく3つのタイプに分類できることが示された。それらを踏まえて、TPMを用いた観光地の魅力評価の実践的意義についても考察した。
キーワード
観光地の魅力、観光写真調査法、観光資源、観光経験、外国人旅行者
表題
トロッコ問題への反応の文化差はどこから来るのか?関係流動性と評判期待の役割に関する国際比較研究
著者
山本翔子(北海道大学大学院文学研究科)
結城雅樹(北海道大学大学院文学研究科/北海道大学社会科学実験研究センター)
要約
本研究は、有名な道徳的ジレンマ課題の一つであるトロッコ問題に対する反応の文化差の原因-特に、多数の人物が被害を受ける状況から別の少数の人物が被害を受ける状況に人為的な変更を施す行為に対する倫理性評価には文化差がない一方、その行為の行動意図には文化差がある理由-を検討した。オンライン質問紙調査で得られた日米成人計256名による回答の分析の結果、1)倫理判断には日米差がなく、また当該行為を倫理的に正しいと考える参加者の行動意図は、アメリカ人よりも日本人の方が低い、2)当該行為に対する他者からのポジティブ評判期待は、アメリカ人よりも日本人の方が低い、3)行動意図の日米差は、社会環境の関係流動性が低いほどポジティブ評判期待が低いことにより説明される、ことがわかった。これらの結果は、道徳ジレンマ状況における人々の意思決定に、彼らを取り巻く社会環境の性質が影響していることを示唆している。
キーワード
倫理判断、トロッコ問題、作為と不作為、関係流動性、文化
表題
メディアフレームと情報の立場性が生活保護の責任帰属に及ぼす影響:「責任がある」のは政府か受給者か
著者
中越みずき(関西学院大学大学院社会学研究科)
稲増一憲(関西学院大学社会学部/関西学院大学社会心理学研究センター)
要約
先行研究では、生活保護制度および保護受給者に対する否定的態度の存在が示唆されている。この否定的態度の一因として、生活保護に関する報道が考えられる。本研究では、メディアによる社会問題の取り上げ方が人々の問題認識に影響するというフレーミング効果に着目し、ウェブ調査実験を行った。さらに、メディアフレームと生活保護に対して擁護的か批判的かといった情報の立場性との交互作用を検討した。その結果、受給者に焦点を当てるエピソード型フレームは受給者への責任帰属に影響しており、この傾向は批判内容条件で顕著であった。一方で、生活保護制度に焦点を当てるテーマ型フレームが政府への責任帰属に及ぼす影響は弱く、情報の立場性による差異も小さかった。責任帰属は支出拡大政策への賛意に影響していた。参加者は、受給者に問題責任および解決責任を帰属すれば政策に反対し、政府に解決責任を帰属すれば政策に賛成する傾向を示した。
キーワード
生活保護、フレーミング効果、メディアフレーム、情報の立場性、責任帰属