第36巻 第2号 2020年11月 和文要約
- 表題
- 公正世界信念がアップストリーム互恵的協力に与える影響の検討
- 著者
- 梅谷凌平(立正大学大学院経営学研究科)
後藤 晶(明治大学情報コミュニケーション学部)
岡田 勇(創価大学経営学部)
山本仁志(立正大学経営学部/立正大学大学院経営学研究科)
- 要約
- アップストリーム互恵的協力は、他者から協力をされた主体が協力してくれた相手ではない第三者へ協力する行動であり、実社会では広く観察される向社会的行動の一種である。しかし、理論的にはアップストリーム互恵的協力は安定的に維持できないことが示されている。本稿において、我々は認知バイアスの一種である公正世界信念の強さがアップストリーム互恵的協力を駆動する可能性を検討する。我々は信頼ゲームを変形したアップストリーム互恵ゲームを構築し経済実験を実施することで、アップストリーム互恵的協力と公正世界信念の関連を検討した。その結果、アップストリーム互恵的協力は、公正世界信念の下位概念である内在的公正世界信念によって説明されることが明らかとなった。この結果は、アップストリーム互恵的協力がなぜ実社会で観察されるのかを説明するメカニズムに示唆を与える。
- キーワード
- アップストリーム互恵性、公正世界信念、クラウドソーシング実験、向社会的行動、認知バイアス
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- 表題
- 援助要請における援助者の切り替え方略:援助者数が援助要請者のストレスに及ぼす影響
- 著者
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古橋健悟(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
五十嵐祐(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
- 要約
- 同一の他者に援助要請を繰り返すことは、援助者だけでなく、援助要請者の心理的負担感も高めてしまう。本研究では、援助要請を繰り返す場面において援助者を切り替える個人ほど、援助要請に伴うストレスの高まりが抑制されるという仮説を検討した。実験では、参加者自身がストレス場面(抑うつまたは失職)に陥ったというシナリオを提示し、その状況におけるストレスの測定、援助要請を行う相手の選択を求めた。その後、援助要請を行っても問題が解決しなかったというシナリオを繰り返し提示し、ストレスの測定、援助者の選択、援助者との心理的距離の測定を求めた。その結果、抑うつ場面・失職場面の両場面において、異なる他者に援助要請を行う個人ほどストレスの高まりが抑制されることが示された。この効果は、パーソナル・ネットワークのサイズおよび選択される援助者の多様性に関わらず生じることが示唆された。考察では、援助要請における援助者の切り替え方略の有効性およびそれが生じるメカニズムについて論じた。
- キーワード
- 援助要請行動、ストレス、コーピング方略、対人選択、ソーシャルサポート
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- 表題
- 形見の意味と故人との継続する絆
- 著者
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白岩祐子(東京大学)
栗本真奈(東京大学)
唐沢かおり(東京大学)
- 要約
- 亡き人が遺した品々を遺品、そのうちとくに重要なものを形見という。本研究では、遺族が形見に見いだしている複数の意味と、故人との継続する絆との関連を検証するため、大切な人と死別した経験のある250人の成人男女に調査への協力を求めた。その結果、形見には主として4つの意味:①物質・機能性、②精神・関係性、③遺志の尊重、④喪失の象徴が込められており、これらのうち精神・関係性と遺志の尊重の得点が高いほど、故人との継続する絆は形成されていることが確認された。遺族が形見にどのような意味を見いだしているかということは、遺族による喪の過程の進行状況を大まかに示す指標であることが示された。
- キーワード
- 死別、遺品、形見、喪の過程
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