第36巻 第3号 令和3年3月 和文要約
- 表題
- 感謝表出スキルの実行がジレンマ状況にいる感謝される側に及ぼす効果
- 著者
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酒井智弘(筑波大学)
相川 充(筑波大学)
- 要約
- 本研究の目的は、二者間のジレンマ状況において、感謝表出スキルの実行が、感謝される側にどのような効果を及ぼすのかを検討することであった。方法は、実験協力者が実行する感謝表出スキルを実験的に操作して、囚人のジレンマゲーム中、実験協力者が実験参加者に感謝表出スキルを実行する実験群と、これを実行しない統制群とを比較した。その結果、実験群の方が統制群よりも、実験参加者が囚人のジレンマゲーム中に示した協力行動の生起、実験参加者の互恵意識の状態、実験協力者に対する対人魅力の評価が有意に高く、これらの変数全てに中程度以上の効果量が示された。これらの結果より、感謝表出スキルの実行は、たとえジレンマ状況であっても、感謝された側の協力行動を強化させ、互恵意識を高め、感謝表出スキルの実行者に対する対人魅力を高める効果があることを明らかにした。
- キーワード
- 感謝表出スキル、感謝される側、拡張−形成理論、互恵性、囚人のジレンマゲーム
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- 表題
- 社会経済的地位と怒り表出のメカニズム:
心理的特権意識と正当性評価の媒介効果に注目して
- 著者
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志水裕美(関西学院大学)
清水裕士(関西学院大学)
紀ノ定保礼(静岡理工科大学)
- 要約
- 本研究では、SES(社会経済的地位)と公共の場における怒り表出の関係を検討した。先行研究では、SESが低い個人は攻撃的である傾向が示されている。しかし感情表出を抑制することが良いとする規範が強く好まれる日本において、Park et al.(2013)は、SESが高い個人ほど怒りを表出する傾向にあることを示した。本研究では心理的特権意識が怒り表出を促進させるかどうかを検討する。心理的特権意識が高い個人は自身の怒りと怒り表出を正当化する可能性があるため、心理的特権意識がSESと公共の場における怒り表出を媒介していると予想される。研究1(n=599)の結果は、仮説を支持した。さらに、研究2の結果(n=598)ではSESが高い個人は、相手に過失がない場合でさえ心理的特権意識が原因で、自身の怒り表出を正当であると判断する傾向があった。これらの結果から、怒り表出は自制心の欠如だけでなく、怒りの正当性も怒り表出を促進させる可能性があると考えられる。
- キーワード
- 怒り表出、社会経済的地位、心理的特権意識、正当性評価、攻撃行動
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- 表題
- 二要因モデルに基づく利益最大化傾向の日本語版尺度の作成
- 著者
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石黒 格(日本女子大学)
- 要約
- 利益最大化傾向(追求)は、その概念の提唱以来、概念的混乱と尺度の不備が指摘されており、多くの議論がなされると同時に尺度の開発、改良が進められてきた。しかし、こうした議論は日本での研究に反映されておらず、現代的な研究を行うには心理尺度の開発が十分ではない。本研究では、利益最大化傾向の二要因モデルで提唱された二次元である最高基準と代替選択肢探索をターゲットとした尺度を翻訳し、その妥当性を検証した。検討の結果、いずれの次元についても高い信頼性が確認された。最高基準については完全主義との正相関も観察され、基準関連妥当性が確認された。しかし、代替選択肢探索については先延ばし傾向との相関が確認されなかった。利益最大化傾向について二要因モデルに基づいた先行研究は数が少なく、外的基準の設定が困難であるため、今後の研究の中で妥当性が確認されていく必要がある。
- キーワード
- 利益最大化傾向、二要因モデル、項目反応理論、完全主義、先延ばし傾向
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- 表題
- 罰行使の動機推定が評判に与える影響:複数の罰選択肢を用いた検討
- 著者
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舘石和香葉(北海道大学文学院・日本学術振興会)
小野田竜一(大東文化大学社会学部)
高橋伸幸(北海道大学文学研究院)
- 要約
- 自らがコストを負う罰行使が適応的な行動となり得るのかどうかは、罰の説明原理を考える上で重要な点である。しかし、罰行使が自身の評判を高めるのかどうかに関する先行研究の結果は一貫していない。本研究は、Raihani & Bshary (2015) の考察から、罰行使の動機がいかに推定されるかが、罰行使者の評判の決定要因になっている可能性に着目し、それを実証的に検討した。場面想定質問紙のシナリオでは、回答者が罰行使の動機を推定しやすくするため、罰行使者は複数の罰の選択肢の中から1つの罰を選び、非協力者に対しそれを行使するという状況設定とした。回答者は罰行使者の動機の推定および印象評定を行った。その結果、罰のタイプによって推定される動機が異なること、それにより罰行使者に対する印象も異なることが明らかになった。したがって、いかなるコンテクストで罰が行使されるかが、罰行使者の評判に影響を与え、それによって罰行使が適応的な行動か否かが左右される可能性が示唆された。
- キーワード
- 罰、サンクション、社会的ジレンマ、評判, 動機
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- 表題
- マインドワンダリングの内容と創造性および精神的健康との関連
- 著者
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山岡明奈(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
湯川進太郎(筑波大学人間系)
- 要約
- マインドワンダリング(以下MWとする)は創造性を増進する一方で、精神的不健康さをもたらす可能性が示されている。しかしながら、MW中の思考内容によっては、精神的不健康さと関連しない可能性があり、このようなMWであれば、精神的健康を損なわずに創造性を増進できると考えられる。そこで本研究では、創造性が高く精神的に健康な人が、日常生活中にどのようなMWを行っているか明らかにすることを目的とした。78名の大学生および大学院生を対象に、創造性と精神的健康の指標を測定し、3日間の経験サンプリングを行った。分析の結果、創造性が高く抑うつ傾向が低い人は、他者に関するMWが少なく、創造性が高く不眠傾向が低い人は、他者や未来に関するMWが少ないことが示された。今後は、他者以外のMWを喚起させたときに、実際に精神的健康を損なわずに創造性が増進されるかを検討していく必要がある。
- キーワード
- マインドワンダリング、創造性、精神的健康、経験サンプリング法
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