他人の目を気にする人ほど身内びいきしやすい



三船恒裕・山岸俊男 (2015).
内集団ひいきと評価不安傾向との関連:評判維持仮説に基づく相関研究
社会心理学研究 第31巻第2号
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人はつい身内びいきしてしまう。

故郷から遠く離れた土地で同郷の人を見つけると,途端に親近感を覚え,もし困っていたら援助してあげようと思うことはないだろうか。また,企業の「学閥」では出身大学によって派閥を作り,同じ大学出身者を優遇するといったこともある。このように,人間は所属集団が同じである「身内」の人をひいきする性質を持っている。


こういった身内びいきは,社会心理学では「内集団ひいき (ingroup favoritism)」と呼ばれる。身内の優遇は,ヨソモノへの差別と表裏一体である場面も多く,社会心理学では多くの研究がなされてきた。


身内びいきする原因は「他人の目を気にする」から?

では,一体なぜ人間は身内びいきをするのだろうか?


社会心理学では,身内びいきの原因としていくつかの説明原理が提唱されてきたが,著者らは,身内びいきの原因を「自らの良い評判を維持しようとする」ためだと考えた(評判維持仮説)。自らの悪い評判が集団内に出回ってしまうことで,自分が仲間はずれにされないようにするために,人は自らの悪い評判を回避すべく,身内をひいきするのだという説明である。


この研究では,この評判維持仮説に基づいて,身内びいきと評判を気にする心理傾向との関連を検討した。著者らが着目したのは,否定的評価への恐怖(fear of negative evaluation)という心理傾向である。身内びいきが悪い評判を回避しようとするための行動であるならば,他人の目,特に他人からの否定的評価を気にする心理傾向が強い人ほど,身内びいきが強いのではないかと予測した。さらに,身内びいきしなかったことが身内にバレない場面では,他人の目を気にする人も,特に身内びいきはしないだろうと予測した。


実験で検証してみよう

実験ではクレーとカンディンスキーの絵の好みを元に,意味のない2つの集団に分けられた。これまでの社会心理学の研究では,こういったほとんど無意味な分け方で分けた集団であっても,身内びいきが生じることが示されてきた。


その上で,参加者は他の参観者とペアを組み,お互いに300円を元手に相手とやり取りをする囚人のジレンマゲームという課題を行った。詳細は本文を見ていただきたいが,多くのお金を相手に提供すれば協力,手元に残しておけば非協力となる。


身内びいきが生じるならば,同集団のパートナーには,異集団のパートナーよりも,多くのお金を提供し協力すると言える。この差分を身内びいきの程度として,否定的評価への恐怖という心理傾向との関連を検証した。


さて,仮説通り,身内びいきは他人の目を気にしている人で強かったのだろうか?


実験の結果,他者からの否定的評価に恐怖を感じる人ほど,身内びいきが強いという傾向が見られた。つまり,予測通り,他人の目を気にする人ほど,パートナーが身内かどうかでパートナーへと協力する金額を変えて,身内びいきを行っていたのである。


さらに,こういった関連性は,相手からは自分の所属集団が見えない条件では消失した。すなわち,身内びいきしなくても,それが身内にバレない場面では,相手が身内だからといって多くの金額を提供してひいきしたりはしなかった。


以上の結果は,「身内びいきは自分の評判を気にかけるために生じる」という著者らの主張を裏付けるものである。身内にこそ優しい人は,周囲の目にビクビクしている人だといえる。


あなたは他人の目を気にする方ですか?つい,身内びいきしていませんか?


(Written by 縄田健悟)

第一著者・三船恒裕氏へのメールインタビュー

1)この研究に関して、もっとも注目してほしいポイントは?
内集団ひいき行動と相関する変数としてfear of negative evaluationに注目した点です。(Abrams & Brownらの主張を除けば)社会的アイデンティティ理論や自己カテゴリー化理論などではこうした予測を導くことは困難なので、現状では評判維持仮説からのみ導かれる仮説だと思います。

2)研究遂行にあたって、工夫された点は?
実験は学生ではない、一般の方々を対象として行いました。中には60代の方々も参加していたので、実験の教示をわかりやすくするように心がけました。特に、「あなたは相手の所属集団を知っているが、相手はあなたの所属集団を知らない」といった操作はわかりにくいので、自分と相手を模式的に表した図を用いて説明しました。かなりわかりやすい実験プログラムができたと思います。

3)研究遂行にあたって、苦労なさった点は?
このプロジェクトは第二著者の山岸先生を中心とする大規模な研究プロジェクトのひとつとして実施されました(このプロジェクトに関連する論文はYamagishi et al., 2012 , 2013 などです)。学外から来る参加者をスムーズに実験室に案内するために(真冬の札幌で)参加者の到着を外に出て待っていたりと、細かい気配りをした思い出があります。

4)この研究テーマを選ばれたきっかけは?
思えば私は東洋大学での卒業研究から内集団ひいき研究を続けています。北大の大学院に進み、山岸先生との共同研究から評判維持仮説を提唱するに至りましたが、内集団ひいき行動をもたらす心理メカニズムに関してはまだまだわかっていないことがあると感じています。行動をもたらす心理メカニズムを明らかにするという目的において、個人特性との相関という方法は決して良い方法とは思えません。しかし、傍証的な知見でも良いからきちんと確かめて、論文化していこうと思い、実験を行いました。

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