仲直りができる人の特徴を測る心理尺度
人間が二人以上いれば,そこは“社会”となり,ときに対立が起きてしまうことは避けられない。人間関係の対立は,心身の健康を悪化させるとともに,組織や集団活動の阻害要因ともなり,人間と社会に様々な弊害をもたらす。この人間関係の対立を解消し,仲直り (reconciliation) を促すためにはどうしたらよいのだろうか?
仲直りを促す個人の特徴として,この論文の著者・大坪氏らは次の2つの心理傾向に着目した。
(1)被害者が加害者を許そうとすること(許し傾向)
(2)加害者が被害者に謝罪しようとすること(謝罪傾向)
これら許し傾向と謝罪傾向の研究を進めていくためには,その前段階として「正しく測る」ことが重要となる。すなわち,まず人の許し傾向と謝罪傾向を正しく妥当に測定できる手法を開発した上でないと,そもそも許し傾向と謝罪傾向の実証研究が進められない。
そこで,著者らは,個人の「許し傾向」「謝罪傾向」を自己報告形式のアンケートによって測るために,英語版の測定尺度の翻訳を行い,「日本語版 許し特性尺度」と「日本語版 謝罪傾向尺度」を作成した。
作られた尺度はこちら
以下のものが,許し傾向と謝罪傾向に関して,それぞれ5段階,7段階で回答してもらう測定尺度である。
(1)日本語版 許し特性尺度(1=とても反対~5=とても賛成)
私の親しい人たちは、私が根に持ってなかなか許さないタイプだと思っているだろう |
ほとんどどんなことがあっても、私は友人を許すことができる |
誰かにひどい扱いを受けたら、私は相手を同じように扱うだろう(r) |
たとえ相手が自分がしたことについて罪の意識を感じていないとしても、私は相手を許そうとする |
誰かに侮辱されても、私は通常それを許し、忘れることができる |
私は多くの対人関係で苦々しく思っていることがある(r) |
誰かを許した後であっても、怒りがぶり返してくることがある(r) |
家族や親友のようなどんなにいとおしい相手だったとしても、こういうことがあったら絶対に私には相手を許せないということがある(r) |
私は自分を傷つけた人をいつも許してきた |
私は許しがちな人間だ |
※ 最後に(r)と付した項目は逆転項目と言い,高いほど「許さない」傾向がある。
(2)日本語版 謝罪傾向尺度(1=とても賛成 ~ 7=とても反対)
他の人に対して過ちをおかしたとき、相手に謝るよりもむしろ、それはさほど悪くなかったかのように振る舞いがちだ |
悪い行いについて告白すると困ったことになるかもしれないので、あまり謝らない |
私が何をしたか誰にもわからないと思ったら、謝らないだろう |
謝らないことで、自分がしたいようにふるまい続けることができる |
自分を無能だと感じなくてよいように、あまり謝らない |
自分が悪いということを認めるのは嫌なので、私はめったに謝らない |
私が謝ると相手が私に対して優越感をもつので、謝るのは好きでない |
怒りがおさまらないので謝ることができないことがしばしばある |
以上の尺度はともに,過去の対人関係を振り返ってもらった際の許し行動・謝罪行動との関連があることが確認されている。
「他人を許す人,他人に謝る人」は どんな人?
ここで作成された心理尺度から分かった「他人を許す人,他人に謝る人」の心理的特徴を見てみよう。
まず,今回作成した2つの測定尺度はお互いに関連しており,他人を許しやすい人は,他人へと謝りやすい人であることが示された。この傾向は,その人が単なる協調的な性格だからというのでは説明できないものであったことから,人間関係の対立を平和に解決しようとする心理傾向が背後にあることが示唆された。
また,許し傾向の高い人は,協調性が高く,情緒不安定性が低く,幸福感が高かった。同様に,謝罪傾向も協調性と幸福感との関連が見られた。つまり,他人を許す傾向・謝る傾向が高い人は,他人に協調的であろうとし,幸せを強く感じている人であるといえる。この結果は,欧米での先行研究と概ね同様のものであった。
既に述べたとおり,この論文は自己報告によるアンケートによって,個人の許し傾向,謝罪傾向を測定することを目的としている。したがって,ここで作られた「心のものさし」を使って,今からさらなる研究が進められることになろう。長い人類史の中で獲得した「助け合う」という人類の性向を明らかにするためにも,また現実の人間関係の対立を理解し解消するためにも,仲直りのプロセスの理解は極めて重要なものである。この尺度を用いた今後の研究の展開が楽しみである。
なお,第一著者・大坪氏による「仲直りの進化社会心理学:価値ある関係仮説とコストのかかる謝罪 」と題する展望論文が,昨年度の本学会論文誌『社会心理学研究』に掲載されている(大坪, 2014)。本論文と合わせて参照されたい。
(Written by 縄田健悟)
第一著者・大坪庸介氏へのメールインタビュー