政治・国際知識はどこから得ている?
この論文は,自分の好みに従って情報に接する「選択的接触」について,インターネットでの政治・国際関連の情報入手を各種サービスの利用傾向から分析している。私たちは「自由に」メディアに接することができるが,それは興味のない情報から目をそらしてしまうことにもつながる。自分の知りたい情報ばかりに接していると,自分にとって関心のない知識が不足し,自分と異なる意見に接する機会も少なくなる。民主主義社会にとって人々が政治・国際にかかわるニュースを視聴することはとても大事なことである。その役割はこれまでテレビや新聞が担ってきていたが,先行研究によれば,そうしたメディアでは本来自分が意図していなかった政治にかかわる情報を偶然手にいれることもできるという。しかし,次々に新たなサービスが登場するインターネットでは,自分が好む情報しか入手できなくなり,その傾向によっては,政治の知識がある人々とそうでない人々の間の格差が広がってしまうのではないかとの懸念も生じる。
インターネットにおける政治関連の情報源は,ポータルサイトや新聞社のサイトだけでなく,Twitterなどのソーシャルメディアや,2チャンネルまとめサイトなど情報をまとめたサイトが挙げられる。こうしたサイト全てをみることは一般には難しく,よく利用するサイトは決まってきてしまう。インターネットの各種サービスのうち,有権者の政治に関する知識の差が拡大するメディア,縮小するメディアは特定できるのだろうか。
WEB調査での検証
2014年8月から9月の政治・国際ニュースの知識について,まずクイズ形式の40の質問が作成され,同年9月に大学生200名を対象とした予備調査での正答率をもとに4段階の難易度を特定し,質問項目が作成された。本調査は同年10月にインターネットのWEB調査により行われた。WEB調査は回答傾向への問題点が著者らの先行研究で指摘されており,それを考慮したスクリーニング調査を行った上で,性別と5つの年代(20~60代以上)の各層が均等になるよう回答依頼がなされ,合計2250名の回答が得られた。有権者のサービス利用状況については,ポータルサイト,新聞社サイト,ニュースアプリ,2ちゃんねるまとめサイトの利用頻度,TwitterとFacebookの利用形態が尋ねられた。また,政治知識として,国内政治ニュース(ヘイトスピーチ,吉田調書など)と国際ニュースの知識(エボラ出血熱,スコットランド独立住民投票など)各4問が尋ねられ,サービスの利用状況による正答数(0~4)の違いが検討された。
インターネットサービスの利用状況は,ポータルサイトの利用が高く,半数程度が「ほぼ毎日」利用していたが,一方ニュースアプリは7割弱が全く利用していなかった。ソーシャルメディアは,TwitterとFacebookを全く利用していない人が半数強であった。国内の政治知識の平均正答数は1.8,国際ニュースの平均正答数は2.5となった。サービス利用状況と正答数との関連をみると,政治知識,国際知識の正答数が高い人は,ポータルサイト,新聞社サイト,Twitterをよく利用しており,政治知識についてはTwitterとの関連もみられた。この調査では対象者がニュース志向であるか,娯楽志向であるかも調べられており,ポータルサイト利用が高い場合は,娯楽志向を持つ人とニュース志向を持つ人の差が小さかった。一方で,Twitter利用が高い場合には,両者の差は広がる結果となっていた。
政治・国際知識の格差拡大の可能性
何気なく利用するインターネット情報。自由に情報収集ができる反面,利用するサービスによって人々の間に知識の格差が生じてくる。政治・国際知識の差が縮小していたのは,ポータルサイト,新聞社サイト,2チャンネルまとめサイトの利用であり,差が拡大していたのは,ニュースアプリとTwitterであった。ポータルサイトや新聞社サイトは「新着」という形で政治や国際を含む様々な記事が表示され,関心外の記事でも見出しを目にし,結果的に政治や国際ニュースの学習につながっていく。2チャンネルまとめサイトでも同様の効果がみられたが,ジャーナリストとしての使命に基づき「堅い」ニュースが取り扱われるわけでなく,政治関心をもたない有権者が娯楽性にもとづいてニュースに接触するという現象(Baum, 2003)に近いという。このことは,例えば戦争を支持する世論の形成などネガティブな帰結を招く可能性もある。ニュースアプリについても,莫大な情報の中から個人の関心に沿った記事に接することが可能になるメリットはあるが,こうしたサービスの利用が今後増えると,異質な意見への接触の機会が減り(Beam, 2014),政治知識・国際知識の差は拡大し,娯楽志向を持った人々をニュースから遠ざけ政治から退場させ,政治に関心の高い人々は元々の考えに沿った情報のみに接することで社会の分極化が加速する危険性を著者らは指摘している。国際ニュースに関する知識の獲得が社会的に望ましい結果につながるかどうか,今後検討が必要である。
情報環境の変化を考えてみると,パソコンによるインターネット利用であればブラウザの起動でポータルサイトが表示されることが多いが,スマートフォンによるインターネット利用が高まれば,知識の差が拡大するようなメディアばかりが利用されることになりかねない。サービスの提供者も利用者も,私たちが接したい情報に「自由に」アクセスできるメディア環境には陥穽(落とし穴)が潜んでいることを理解する必要があるだろう。
(Written by 杉浦淳吉)
第一著者・稲増一憲氏へのメール・インタビュー