日常に潜む「仲間はずれ」
仲間はずれにされるという経験をしたことがあるだろうか?仲間はずれと言うと大げさなようであるが、疎外感を抱いた経験と言い換えてみると、実は少なくないのではないだろうか。たとえば、いつもの仲良しグループが自分の知らないところで楽しそうにしている写真をSNS上で見たとき、飲み会が自分の知らない話題で盛り上がっているとき・・・このような日常生活で起こりうるような状況において、多少なりとも疎外感を抱いた経験は誰にでもあるだろう。
社会心理学では、集団や個人から仲間はずれにされることを「社会的排斥」と呼ぶ。社会的動物である私たちにとって他者との関わりの断絶は脅威となるため、社会的排斥に対して非常に敏感に反応し、行動や物事の捉え方が変わりうることがこれまでの研究から分かっている。
この論文もまた社会的排斥に対する人々の反応に注目をしており、社会的排斥を受けたあとには他者の捉え方が変化することを心理学実験の手法を用いて示している。
社会的排斥後、誰なら受け入れてくれるのか?
私たちは人とのつながりなしには生きていけない生き物である。そのため、社会的排斥を受けたあとには、再び人とのつながり、すなわち「再親和」を得ようと試みる。ただし、このときに誰彼かまわずつながりを得ようとするわけではなく、受け入れてくれる可能性の高い人物を見極める必要があることに注意が必要である。なぜならば、適切に人を選ばなければ、仲間はずれにするような人物に近づいてしまう可能性があるからである。したがって社会的排斥後は特に、再親和の可能性の高い人物を見極めることが重要となる。
では、私たちはどのようにして再親和の可能性の高い人物を見極めているのだろうか。この論文では、再親和可能性の手がかりの1つとして、所属集団に注目している。自分の所属している集団(内集団)のほうが、自分が所属していない集団(外集団)よりも、再親和可能性が相対的に高いと考えられるためである。
実際に、社会的排斥を受けた後には、内集団と外集団の違いにより敏感になり、集団間の違いを見出しやすくなることがこれまでの研究から分かっている。ただし、所属集団間の違いに気づきやすくなった結果、私たちの物事の捉え方にどのような変化が生じるのかについてはこれまでの研究からはあまり分かってこなかった。そこでこの論文では、社会的排斥後には、所属集団間の違いに注目がよりなされるようになった結果、所属集団内の違いにはあまり気づかなくなるのではないか、すなわち同じ集団内にいる人々は皆似ていると判断するようになるのではないかと考え、次のような仮説を立てている。
社会的排斥を受けた参加者は、排斥を受けなかった参加者と比較して、内集団と外集団のいずれにおいても、その集団成員を似ていると判断するようになるだろう。
「仲間はずれ」を実験で作り出す
上記の仮説を検証するために心理学実験を実施し、参加してくれた大学生を、社会的排斥を受ける条件(排斥条件)と受けない条件(受容条件)に分けた。ただし、参加者に本当に社会的排斥を経験させるわけにはいかないため、コンピュータ上でサイバーボール課題という課題に取り組んでもらった。この課題では、参加者は他の2名のプレイヤーと一緒にキャッチボールを行ったが、他の2名のプレイヤーはコンピュータープログラムであると伝えられていた。ゲーム内でボールが自分に回ってくる回数が、排斥条件と受容条件で変わっており、排斥条件ではゲームの序盤には少しボールが回ってきたが、それ以降回ってこなかった。他方で、受容条件では、ほぼ均等な割合でボールが回ってきた。なお、これまでの研究からこのゲームを行うことで、排斥条件の参加者は、受容条件の参加者と比較して、社会的排斥を受けているように感じる、すなわち疎外感を感じやすいことが確認されている。
このゲームを行ったあとに、参加者には自分の大学(内集団)もしくは他の大学(外集団)、同性(内集団)もしくは異性(外集団)の性格がどれくらい似ているか、それとも異なっているかを評定してもらった。
実験の結果、仮説を支持する結果が得られ、排斥条件の参加者は、受容条件の参加者よりも、内集団および外集団の集団成員の性格が似ていると判断しやすいことが示された。
この結果は、私たちが社会的排斥を経験した後には集団間の違いに注目しやすいために、集団内の違いには気づきにくくなることを示唆している。そして、再親和の可能性として所属集団が重要な手がかりであることの傍証を提供している点において意義深いと考えられる。
実験室で分かっている社会的排斥経験後のこのような変化。日常生活の中で疎外感を感じたときの自分の変化に注目してみると、新たな発見が見つかるかもしれない。
論文内では、ここでは紹介しきれなかった過去の研究や、実験の手続きが大変丁寧に書かれている。特に、集団の類似性を測定する方法が非常にユニークであるため、是非とも本文を読んで詳細を確認してみてほしい。
津村健太氏へのメール・インタビュー