想定外の「見られ方」は,自分たちへの「見方」も変える?



田村美恵(2017).
メタステレオタイプ的情報が集団間態度と内集団認知に及ぼす影響:メタステレオタイプ的情報の望ましさ、及び、自集団ステレオタイプとの一致度に注目して
社会心理学研究 第33巻第1号

Written by 永野惣一(筑波大学)
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自分たちがどう見なされているか―メタステレオタイプとは

「今日の服装,ちょっと派手だと思われているだろうな…」
他者と接するときに,自分を見つめるもう一人の自分,すなわち「メタ認知」は相手とのコミュニケーション(相互作用)に大きく影響することが知られている。上記のように感じている時には,不安な気持ちが強まり,いつもより消極的に振舞ってしまうものである。

このことは集団間でも同じである。つまり,自分が所属する内集団が,外集団からどのようにみなされているかという,「メタステレオタイプ」という認知も存在する。これは,一般によく知られている「ステレオタイプ(外集団をどうみなしているかという認知)」とともに,集団間の相互作用に重要な役割を果たすと考えられている。

特に,これまでの研究からは,ネガティブなメタステレオタイプ(外集団から,自分たちの集団が否定的に思われていると認知すること)は,外集団に属する人々との相互作用への不安を喚起し,相手との接触を避けようとする行動を促すことが示されてきた。さらに,「自分たち自身が抱くイメージと一致しており,かつ,ネガティブな特徴」には,より焦点が当てられやすく,メタステレオタイプとなりやすいことを示した研究もある。

日常場面に目を向けると,例えばホームステイ先のホストの反応や,海外ニュースの報道などを通じて,「日本人がどのように思われているのか」ということを改めて知ることも多い。このように,外集団から示される直接的・間接的な情報は,外集団への態度や内集団へのメタステレオタイプの形成につながるものであるが,これらの情報の影響を調べた研究は十分にはなされていない。そこでこの研究では,メタステレオタイプに関わる情報を提示し,それによってどのような影響が生じるのかについて検討されている。また,それらの情報が「ポジティブか/ネガティブか」「想定内のものか/想定外のものか」という違いに注目している点が特徴的である。


実験結果―「日本人って,実はこんな風に見られていますよ」と伝えられると…?

参加者は国内の外国語大学学生245名。さまざまな国の大学生を対象にした国際比較研究という名目のもとで,内集団として「日本人」,外集団として「韓国人」という集団カテゴリーを設定して実験が行われた。

メタステレオタイプに関わる情報として,「望ましさ(ポジティブ/ネガティブ)」,「自集団ステレオタイプとの一致度(一致している/不一致である)」ごとに,3つずつのキーワードが用意された。そして,「韓国のとある大学の学生を対象にして行われた『日本人に特徴的なイメージ』についての,調査結果を知らせる」という解説の後に,表1にある4種類のうちいずれか1つを伝えるという方法が用いられた。これにより,「自分が所属する内集団が,外集団からどのようにみなされているか」を,実験参加者に体験させているのである。

表1:メタステレオタイプ的情報として用いたキーワード(論文Appendix 1より引用)

表1:メタステレオタイプ的情報として用いたキーワード

その後,外集団の成員に対する好意度が,上記の情報を提示する前と提示した後とでどのくらい変化したのかを測定し,提示されたキーワードが自分たち日本人にどのくらい当てはまると思うかについて尋ねている。

実験の結果はとても興味深いものである。まず,外集団に対する好意度がどのように変化したのかを見てみよう。表2には,どのくらい好意度が変化したかという値が掲載されているのだが,ポジティブなメタステレオタイプ的情報が示されると,外集団に対する態度は好意的なものへと変化していたのである。しかもこの効果は,提示された情報が,以前から自集団に対して抱いていたステレオタイプと一致していても一致していなくても,同様に生じていた。いわば,自分たちの集団を好意的に評価してくれる外集団に対しては,その評価が意外なものであろうとなかろうと,自然と好感がわいてくる…ということである。

逆に,ネガティブなメタステレオタイプ的情報が提示された場合にはどのようになるであろうか。この場合,外集団への好意度は低下するが,その際,「不一致であること」が重要なファクターとなる。自集団に対してネガティブなステレオタイプを向けられていると伝えられた時,その内容が意外なものであるほど,相手集団への好意度がより低くなってしまうことが示された。すなわち,日本に対する想定外のネガティブな情報に対して,我々日本人は大きく反応してしまい,そのように評価した相手国のことをネガティブに評価するようになるのである。

表2:メタステレオタイプ的情報が提示されると,外集団への好意度はどのように変わるのか?(論文Table 1より引用)

メタステレオタイプ的情報が提示されると,外集団への好意度はどのように変わるのか?

注:表の中の数値は,外集団への好意度がどのくらい変わったかを示す。正であれば良い方向へ,負であれば悪い方向へと変化したことを意味する。括弧内の数値は標準偏差(各群における,数値のばらつきの程度)。その他,詳細は論文を参照されたい。

それでは次に,メタステレオタイプ的情報に触れることで,自分たちが属する内集団に対する見方がどのように変化するのか。この点については,外集団から見たメタステレオタイプ的情報としてではなく,単純に3つのキーワードだけが提示された群(ベースライン群)も設けたうえで,詳細な検討を行っている。詳細については表3をご覧いただきたい。ここには,「日本人全体のうち,次のキーワードに当てはまる人々がどのくらいいると思いますか」と尋ねた時の回答(0%~100%)の平均値が示されている。

自集団に対してポジティブな情報が提示された場合,それらは「我々に当てはまるものだ」と感じられやすいようである。しかし,その情報の内容が,既存の自集団へのイメージとは一致していない場合には様相が異なる。この場合,キーワードを単純に提示されるよりも,「外集団の人々はあなたたちをこのように見ていますよ」という形でキーワードを提示された時の方が,それらの情報をより「当てはまる」と感じやすいことが示された。自集団に対してもともと持っていたイメージとは異なる形で,外集団の人々が自分たちに対してポジティブなイメージを持っていた…この,「良い意味で期待を裏切る」想定外の事態の中では,自分たちが属する集団のことを,よりポジティブな特徴を備えた集団として捉えやすくなるのである。

表3:メタステレオタイプ的情報によって,自集団に対する見方はどのように変わるのか?(論文Table 2より引用)

メタステレオタイプ的情報によって,自集団に対する見方はどのように変わるのか?

注:括弧内の数値は標準偏差(各群における,数値のばらつきの程度)。その他,詳細は論文を参照されたい。

昨今,海外から日本に訪れる旅行者が増えており,東京オリンピック開催も控えるなか,外国人に対し,「我々日本人は,どのように見られているのか」という点を意識する機会が増えるかもしれない。その中では,今までに想定すらしてこなかったような,意外なイメージを抱かれていたことを初めて知る…という場面にも多々遭遇することになろう。こうした時代・社会の変化の中で我々は,自身が属する日本という集団をどのように認知し,また,どのようにその見方を変容させていくのだろうか。さらに,これを受けた我々の態度の変化に伴い,外国人への「おもてなし」の質にも変化が生じるだろうか。そんな現実場面から想像してみても,大変興味深い研究である。


第一著者・田村美恵氏へのメール・インタビュー

1)この研究に関して,もっとも注目してほしいポイントはどちらでしょうか?
自集団のネガティブな特性について、外集団から言及されたときの結果です。それが自集団イメージと一致した、いわば「想定内」の内容だった場合と、自集団イメージとかけ離れた「想定外」の場合とでは、外集団に対する反応が異なっていた点に注目して頂ければと思います。

2)研究遂行にあたって,工夫された点はどのような点でしょうか?
どのような集団カテゴリーを設定するかに腐心しました。今回は、本研究の実験参加者が 外国語大学の学生だったこともあり、彼らの関心が高いと思われる「国籍」に注目し、日本人(内集団)と韓国人(外集団)という集団カテゴリーを用いました。これは、実は、以前行った別の研究のための予備調査の結果、韓国に対する好意度が極端な値を示していなかったのを踏まえてのことです。別の集団カテゴリーを用いた場合には、本研究とは異なる結果が得られる可能性も否定できません。

3)研究遂行にあたって,苦労なさった点はどのような点でしょうか?
遂行に関することではないですが、タイトルのつけ方に毎回苦労します。「内容をよく反映するもの」にしようとした結果、ダサいタイトルになってしまいました(苦笑)。海外論文のように、読む気にさせる、洒落たタイトルをつけれるようになることが目下の目標です。

4)この研究テーマを選ばれたきっかけはどのようなものでしょうか?
これまで、ステレオタイプと関連する研究を行ってきましたが、元を辿れば、それは、20年以上前のアメリカへの短期留学の経験に遡ります。時折思い起こすのは、周りに日本人(を含めアジア系)が誰一人乗っていないバスの車内で、他の乗客たちの視線をそれとなく感じながら、「私はどんなふうに思われているんだろう」と漠然と考えていたことです。 そのとき初めて感じた「『日本人』として見られる」という体験が、長い年月を経て、このようなかたちで実を結んだのかもしれません。

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