自信がなさすぎても・ありすぎても陥る対人関係の問題



金政祐司・浅野良輔・古村健太郎 (2017).
愛着不安と自己愛傾向は適応性を阻害するのか?:周囲の他者やパートナーからの被受容感ならびに被拒絶感を媒介要因として
社会心理学研究 第33巻第1号

Written by 武田美亜
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自信は,なさすぎても,ありすぎても,厄介?

あなたは自分に自信があるだろうか?
「もちろん!」と即答する人もいれば,「いや,あまり……」と下を向いてしまう人もいるだろう。本当はあると思っているが謙遜して「ない」と答える人もいるかもしれない。
人が社会に適応してうまくやっていくためには,ある程度自分に自信がある方がよいとされている。逆にいうと,自信がなさすぎたり,ありすぎたりすると,適応上の問題が生じうる。


自信がなさすぎる人と自信がありすぎる人という対照的な性質を持つ人たちだが,対人関係においては同じような問題を抱える可能性があるという。本研究では,そのしくみの共通点と相違点を探った。


自信がなさすぎる・ありすぎる人とはどのような人か

いわゆる「自信」を心理学の専門用語でいうと「自尊心」になるが,本研究で注目する自信のなさすぎ,ありすぎという性質は,自尊心とは少し異なるものである。具体的な研究内容を紹介する前に,少しこのあたりの違いを確認しておこう。


本研究で着目した「自信がなさすぎる人」とは,専門用語でいうと「愛着不安の高い人」のことである。自分の存在が,他者,特に養育者や恋人といった身近で親密な他者に受け入れてもらえるか,自分の要求に他者がどれくらい応じてくれるか,という点に関して自信がなく,相手から見捨てられるのではないかという焦りや不安をひどく感じる人である。
自信がなさすぎる人は,見捨てられるかもしれないという不安ゆえに,親密な関係にある相手との雲行きが怪しくなってきた時に,自分が傷ついたことや苦悩を過度に訴え,結果としてさらに相手との関係を悪くしてしまいやすい。また,怒り感情などのコントロールがうまくできないために,相手に対して攻撃性が高くなり,やはり結果として関係を悪化させてしまうと考えられる。


一方「自信がありすぎる人」とは,本研究では「自己愛傾向の高い人」を指す。自己評価が高く,自分はほかの人からも注目されてしかるべきすばらしい人間だと思っているので,他者に注目されなかったり,ましてや批判されたりしようものなら,怒りや攻撃性を高めてしまう。


「他者から受け入れられている」感が重要

自信がなさすぎる人とありすぎる人が,みなそれだけでこうした対人関係上の問題を生ずるわけではない。他者から受け入れられているという感覚を持てているか,または逆に拒絶されていると感じるかといったことが,他者への攻撃性,ひいては他者との対人関係上の問題に影響するということを,本研究は示している。具体的には,自信がありすぎる人もなさすぎる人も,特に他者から受け入れられているという感覚を持てない場合に,他者に対して攻撃的になり,結果として相手との関係に問題を生ずると考えられる。
本研究ではこのことを,一般的な対人関係(友人関係・研究1)と,特定の親密な関係(夫婦関係・研究2)を対象に調べており,どちらの対人関係においても自信のなさすぎ/ありすぎ→他者から受け入れられているという感覚の低さ→他者への攻撃性という流れが見られた。
夫婦関係を対象とした研究2では,相手への攻撃性だけでなく,相手の行動を制限したり,相手を傷つけることを言ったりという間接的攻撃の頻度についても同様のパターンが見られることを見いだしている。


夫婦関係のような親密な関係において,相手に対する攻撃性の高さや間接的攻撃行動の多さは,ドメスティック・バイオレンスなどの重大な問題にもつながる。とはいえ,攻撃性の高さや間接的攻撃の頻度からそう簡単にドメスティック・バイオレンスになるような直接的行動の予測ができるわけではないので,自信の程度および受け入れられている感覚の程度と直接的な攻撃行動との関連については,今後の研究の進展が期待されるところだ。


なお,ここでは「他者から受け入れられている」感についてのみ紹介したが,本研究では「他者から拒絶されている」感(裏表の関係にある同じもののように思えるが,研究上これらは区別される)のはたらきについても検討している。こちらは自信のなさすぎる人とありすぎる人で少し違う影響力を持っているようだ。また,本研究では自信のなさすぎ・ありすぎが個人レベルの問題(具体的には抑うつ傾向)に及ぼす影響についても調べている。興味のある方はぜひ本文にチャレンジしてみてほしい。


金政祐司氏へのメール・インタビュー

1)この研究に関して、もっとも注目してほしいポイントは?
自分に自信を持ち過ぎるのも、自分に自信を持てなさ過ぎるのも他者に対して攻撃的になって個人間適応が阻害されるよ。さらに、そのような影響の幾分かは、自身の周囲の他者からの受け入れられている、あるいは拒絶されているという感覚によって説明されるものだよ、ということでしょうか。

2)研究遂行にあたって、工夫された点は?
研究1と研究2の結果に一貫性が保てるのかについては半信半疑というか、かなりの不安を感じていました。研究2の夫婦ペア調査で関係に関連する変数としてどういったものを用意すればいいのか、配偶者の方の暴力被害を研究の枠組みに入れるべきなのかについて悩んだような気がします。

3)研究遂行にあたって,苦労なさった点は?
研究遂行ではないのですが、分析に四苦八苦しました。審査者の方からご指摘を受けまして、審査の過程で分析を大幅に変更したのですが、分析方法を調べて、共著者と別々に分析を行って、きちんと分析結果があっているかを確認しながらやりました。

4)この研究テーマを選ばれたきっかけは?
自己愛の高さは、自己を過度に強調し他者よりも自分を上位に位置づけたいという欲求と連関し、また、愛着不安の高さは、自己が脆弱で他者から見捨てられることに過度の不安を覚えるため自己を他者よりも下位に布置してしまうことへと繋がる。その点において、両者は反転系と捉えることもできるのですが、しかし、それら双方の特性がともに自己を焦点としている、つまり、眼差しが自分に向いているということで共通しているのではないか。それをうまく数値で出せないものかと。うまくいっているのかはわかりませんが。

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