溜め込み注意!!



池内 裕美(2018).
溜め込みは何をもたらすのか:ホーディング傾向とホーディングに因る諸問題の関係性に関する検討
社会心理学研究 第34巻第1号

Written by 山岡明奈(筑波大学大学院)
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「断捨離は難しい」

 自分の部屋を見渡してみてほしい。必要なモノや,よく使うモノの他に,もういらないモノや,しばらく使っていないモノが放置されていないだろうか。
 大掃除や引っ越しの際に「いつか使うかもしれないから」「思い入れがあるから」と,“捨てずに一応とっておいたモノがある”という人は一定数いるだろう。また,気が付くと不要なモノが部屋にあふれ,必要なモノがすぐに出てこなかったり,友人を部屋に招く度に大片付けをしなければならなかったりと,モノが散らかっているが故に煩わしい思いをした経験がある人も多いのではないか。
 このように,モノを溜め込んでしまうことは,日常レベルで頻繁に生じている。そしてモノを溜め込んでしまうことで,様々な不都合が生じることがある。著者の研究では,モノを溜め込むことによって生じる諸問題を,男女の差と年齢による違いをふまえて検討している。

溜め込むことで生じる問題

 モノを溜め込んでしまうことで真っ先に生じる問題は「物理的問題」だと考えられている。つまり,モノが多くなり散乱することで,家の中が歩きにくくなったり,部屋を使用しづらくなったり,部屋を本来の目的通りに使用できなくなるといった問題が生じる。著者の研究では,このような物理的問題は“モノを捨てることに抵抗を感じ”たり,“モノの存在を忘れないためにそのモノ自体を保持し続け”たり,あるいは“モノが自分の一部であると感じ”たりしている人ほど生じやすいことが示された。
 そして,モノの溜め込みによって物理的問題が生じると,精神的問題,経済的問題,社会的問題といった諸問題が引き起こされる。すなわち,物理的にモノが多くなり日常生活に支障が出ることで,モノが多くてうんざりし,精神的にストレスを感じたり,モノを購入し過ぎて金銭的に苦しくなったり,持ち物の多さが原因で他者と揉めるといった問題が生じる。たしかに,大量のモノが部屋に散乱していればイライラするし,それだけのモノを買っていれば金銭的にも圧迫されるし,この状況を家族や友人に注意されれば揉めることもあるだろう。著者の研究はこれらの関係をデータで示し,さらに,物理的問題が生じていなくても,特に女性は“モノを捨てることに抵抗を感じ”ているほど,溜め込みによってストレスを感じやすく(精神的問題),“モノが自分の一部であると感じ”る傾向が強いほど,モノの多さが原因で他者と揉めやすい(社会的問題)ことを示した。そして男性は,溜め込みによって経済的問題を抱えることで,モノの多さにうんざりするなど精神的問題を抱えやすいことを示した。

女性や若い人の方が溜め込みやすい?

 著者の研究では,男性よりも女性の方が溜め込みを自覚している人が多く,物理的問題や精神的問題を抱えている頻度も高いことが示された。これは女性の方が広告や値引きなどの影響を受けやすく,日常的にモノを買い過ぎる傾向が高いからだと考えられている。
 また,60代よりも20~30代の方が,モノを捨てる抵抗が高く,物理的問題や社会的問題を抱えている頻度が高いことが示された。これは,20~30代が将来を見据えており,「いつか役に立つかもしれない」という考えから溜め込みを行いやすい傾向にある一方,60代になると,将来に残るような“モノ”にお金を費やすよりも,今のための“サービス”にお金を費やすようになり,モノに執着しなくなるためだと考えられている。
 このような年代による違いは,物理的問題が生じる理由にも表れていた。20~30代は,「いつか役に立つかもしれない」という考えを持ち,“モノを捨てることに抵抗を感じ”ているために溜め込みが生じて物理的な問題が引き起こされている一方,60代では,“モノを自分の一部のように感じ” ており,モノに対する過剰な意味づけや思い入れが原因で,溜め込みが生じていた。
 このように,性別や年代によって,溜め込みの原因や,それによって生じる問題の頻度が異なっており,総じて女性や若い世代において,溜め込みとそれにまつわる諸問題が生じやすいことが示唆されている。

「断捨離は難しい…が」

 モノを溜め込み過ぎてしまい,日常生活に支障がでるほどの物理的問題を抱えてしまうと,経済的にも,精神的にも,そして人間関係においても支障がでる可能性がある。この本文を読んで心当たりがあった人は,ぜひ著者の論文にも目を通してほしい。そして,今一度,自分の部屋を見渡し,不要なモノがないかを確認してほしい。
 捨てられそうなモノはみつかっただろうか。


第一著者へのメール・インタビュー

1)この研究に関して,もっとも注目してほしいポイントはどちらでしょうか?
 もともとホーディング(溜め込み)は、「強迫的ホーディング」と呼ばれ、強迫神経症の一形態と見なされていましたが、2013年のDSM-5から一つの独立した精神疾患として定義されるようになりました。…と、聞くと「臨床心理学」の研究テーマの様に思われますが、本研究ではそうした病的な溜め込みではなく、誰にでも起こりうるレベルの日常的な溜め込みに焦点を当てている点がポイントです。そうした日常的な溜め込みが基で、家族と喧嘩したり、自分で自分が嫌になったり…。そんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。モノがもたらす諸問題を正しく理解することで、モノの呪縛から解放され、些細なトラブルのいくつかは回避できると思いますよ。

2)研究遂行にあたって,工夫された点はどのような点でしょうか?
 工夫…。工夫…。難しいですね。あえて言うなら、論文ではあまり触れていない箇所なのですが、「ホーディングに因る諸問題」の項目群を収集するにあたって、グループ・インタビューを用いている点でしょうか。最初の項目群の作成には、他にも望ましい方法がありますが、モデレーター歴20数年のキャリアを活かして、本研究ではグルインから得た発話内容を項目に置き換え、尺度化しております。

3)研究遂行にあたって,苦労なさった点はどのような点でしょうか?
 研究遂行中ではありませんが、査読者から頂戴したコメントに応じて論文を修正する過程が一番頭を抱えましたね。あらたな分析を加えたり、不要な記述を省いたり、と。でも、おかげで新たな発見もあり、やはり査読者からのコメントはありがたいものだなあと痛感いたしました。

4)この研究テーマを選ばれたきっかけはどのようなものでしょうか?
 もちろん、私自身がモノに翻弄されているからです!これまでずっとモノをめぐる諸問題について研究しているのですが、特にホーディングに関しては、「そろそろ真剣に断捨離しないと大変なことになるぞ」といった、自分自身への戒めも込めて着手いたしました。

5)その他,読者の方々にお伝えしたいことはございますでしょうか?
 槇原敬之さんが『もう恋なんてしない』の中で、「ムダなものに囲まれて、暮らすのも幸せと知った」と唄っておられますが、鵜呑みにしてはいけません!シンプルライフやミニマリストが良いとは言いませんが、年をとると片付けるのも大変だし、判断力も鈍ります。死蔵に悩まされている人は、一日でも早く断捨離を開始してはいかがでしょうか。人は現在の持ち物の2割程度でも十分生活できるそうですから。…あ、自分への戒めです。

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『社会心理学研究』は,日本社会心理学会が刊行する学術雑誌です。
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■文責 日本社会心理学会・広報委員会