第45回公開シンポジウム

日本社会心理学会2001年度第45回公開シンポジウム
「利用者から見た民事訴訟: 法学+社会心理学の視点」

会期

2001年6月30日(土)午後2時 – 5時

会場

千葉大学 自然科学研究科棟 1階大会議室

趣旨

陪審裁判が盛んな米国では、刑事事件だけでなく、民事裁判も陪審によって判断されます。しかし、個人間の「私的な争い」のため、数十名の人々が裁判所に呼び出され、その中の十数名がさらに数日間、公判審理のため拘束されるということは、日本人の感覚からは理解しがたいことで、人によっては「とんでもないこと」と考えるかも知れません。現在、わが国では司法制度改革が論議され、国民主権を根拠に国民の司法参加の促進にはずみがついていますが、今のところ、対象になるのは、刑事の重大事件だけのようです。
もちろん、民事の争いも裁判所で扱われるのですから、米国だけでなくわが国でも、これをまったく個人的なものと見なしてはいません。一方で私的な側面を持ちますが、他方で民事訴訟も「社会全体の関心事」なのです。どのようなことが訴訟になり、どういう手続きが取られ、どんな結果になるかが、社会のあり様を決めているからです。一方で、当事者たちが納得して任意に合意するという基準が最も重要ですが、他方で社会も、手続きと結果における正義(公正さや公平さ)を、当事者たちのまったくな自由に任せるわけにはいかないのです。
米国民の多くがこのような「理屈」をきちんと理解し行動しているわけではないでしょう。陪審員をつとめるのも、自分が当事者となったとき、陪審の判断のほうがよいという思いが重要なのかも知れません。しかし、余談になりますが、このような点において、米国民のほうが日本人よりも「集団主義的志向」がはるかに強いと思うのですが、いかがでしょうか。
さて、今回、日本社会心理学会の第45回 公開シンポジウムを千葉大学文学部でお引受けし、テーマとして「法と社会心理学」をいただきました。社会心理学者としての強いアイデンティティを持ちますが、学融的領域に魅力を感じ、昨年の「法と心理学会」設立に参画した者として、このような機会を与えられたことを、まず社会心理学会に感謝したいと思います。
最初に民事裁判のもつ公的・社会的側面にふれたのは、民事訴訟はもとより司法や裁判の全体に、一般国民だけでなく社会心理学者もあまり関心をもっていないように思うからです。すでに何度も指摘されていることですが、法学は心理学の応用が試みられた最も古い分野の一つです。特に社会心理学は法学に対して様々な理論や実証的知見を提供できるはずですし、法学や裁判は興味深く同時に実用的な研究テーマを社会心理学者に与えてくれると思います。
今回のテーマとして、民事裁判を選びました。民法や民事訴訟に関しては、特に心理学研究が少ないように思います。それでも社会心理学には分配や手続きの公正に関する研究や紛争解決の研究があり、これらの分野でわが国でも少しずつ知見が蓄積しつつあります。今回は特に、民事訴訟の当事者の視点を中心に、紛争や訴訟の原因・理由、手続きや結果に関する公正性や公平さの知覚、納得して任意に合意するための必要条件、様々な手続きによる結果への満足度、それらの仕組み・手続きに対する評価や制度全体の支持、そして、その改善の必要性や方向などに、社会心理学が何を提供できるか、提供すべきか考えていきたいと思います。
ご参加くださるのは次の皆さんです。それぞれのテーマでお願いする予定です。

企画・司会

黒沢 香(千葉大学文学部)

話題提供

  • 大渕憲一(東北大学文学研究科) 「社会心理学と民事訴訟」
  • 四宮 啓(千葉県弁護士会)   「弁護士から見た民事訴訟」
  • 西口 元(千葉地方裁判所判事) 「裁判官から見た民事訴訟」
  • 菅原郁夫(名古屋大学法学研究科)「法学+社会心理学と民事訴訟」

お問い合わせ

千葉大学文学部(〒263-8522)
電話:043-290-2285
E-mail:kurosawa[at]bun.L.chiba-u.ac.jp([at]を@に変えてください。)

シンポの流れ(予定)

  1. 日本社会心理学会理事長 高木 修(関西大学)
    あいさつ
  2. 黒沢
    企画の趣旨、パネルの紹介
  3. 大渕
    民事訴訟と社会心理学、研究分野の展望、具体的な研究例と知見
    紛争の研究、紛争解決、正義の問題
  4. 菅原
    民事訴訟当事者の視点、利用者調査の結果
    専門家と制度による、当事者の支援と解決策の Availability & Adequacy
  5. 四宮
    民事訴訟と弁護士・代理人、外国(米国)での経験談
    訴訟以前の当事者、その時点での相談・カウンセリング
    代理人活動と、経済的側面・社会的側面
  6. 西口
    裁判官からみた当事者、弁護士・代理人
    社会の中の裁判所・民事裁判、社会心理学者に望むこと
  7. 菅原
    調停と和解、ADRなど
    「面接」・「討論」・「交渉」・「和解」の各技能について
  8. 大渕
    心理学者から、法学者・法曹へ
  9. 四宮・西口・菅原
    法曹・法学者から心理学者、特に社会心理学者へ
  10. 参加者からの質問と意見
  11. 最後に、4人の皆さんに、一言ずつご発言を