政治態度や規範の探求をめぐる社会心理学と政治学の対論
(共催:日本選挙学会)
第2日(9月18日) 12:15~13:45 H号館2F 201
企画者:
稲増 一憲(関西学院大学)
話題提供者:
河野 勝(早稲田大学・非会員)
亀田 達也(東京大学)
概要
社会心理学と政治学は社会調査や実験などの方法論を共有しており,意思決定や規範など,研究関心が重複する部分も大きい.近年では,社会心理学において注目を集めているJonathan Haidtらの道徳研究がイデオロギーという政治学における中心的な概念のひとつを扱っている.このように方法論や研究対象を共有する社会心理学と政治学であるが,両者の大きな違いとして,ユニヴァーサリズムを志向する社会心理学と時代的な文脈を無視することはできない政治学という対照関係が存在する.今回のシンポジウムにおいては,両者の対照関係を浮き彫りにするとともに,それを乗り越えた学際研究の可能性について考えてみたい.
河野 勝氏
今日,世界に現存する政治制度や政治体制は,近代以降の(その意味ではきわめて特殊で時代限定的な)文脈の中で産み落とされ,成熟してきた.たとえば,(一定の要件をもつ)すべての人々が主権者として等しく一票を投じる権利をもつ民主主義なるものがこの地球上に定着したのは,たかだか,ここ100年たらずのことでしかない.それゆえ,政治学における真理の探求は,そうした文脈的制約を自覚した上でなされなければならず,この留保は,普遍的な真実や行動原理を追求しようとする経済学や心理学とは異なる理論的関心ないし方法論的性向を生じさせる.発表においては,この違いをいくつかの具体的な研究例を紹介して,明示化していきたい.
亀田 達也氏
ギリシャや中国以来の政治哲学は,望ましい社会のあり方(「べき」)をめぐってさまざまな論考を積み重ねてきた.進化ゲームを用いた理論解析や社会心理学の実証研究によれば,政治イデオロギーや社会理想のタイプは無限に存在するのではなく,いくつかの有限なパターンに弁別可能だという.それでは「である」に関する実証的なデータは,「べき」に関する規範的議論に何を提供できるのか.“自然主義的誤謬”に陥ることなく,この問題を考える予備的な作業を試みたい.